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以下[ ]内は引用者Hanzoの注釈です。
[坂井さんのベテランの技に対する評価は、時期によって大きく異なります。ただし、当然なんですが、非常に重要でかつ興味深いのは、両方の時期に共通し坂井さんの目線が捻り込みを受ける側に立っているということです。]
『続・大空のサムライ』1970年光人社
「ある神業を得んとして」のなかの一節 P81
[1938年2月 佐伯航空隊 戦闘機実用機教程1ヶ月のあと、3ヶ月の延長教育期間,使用機種九○艦戦,先輩の黒岩利雄一空曹との単機空戦訓練のはなし]
・・・高度1500mで、一番機[黒岩機]にならって反転し向いあった。反航だから、距離はあっという間につまって、おたがい真横になった。相手が左急旋回に移ったのを見ながら私は左いっぱいに翼を傾けると同時に、操縦桿をいっぱいに右手で引っぱりながら、左垂直旋回でまわりこんでいった。<中略> 私はけんめいに黒岩機にくいこもうとがんばってまわりつづけた。ひとまわりふたまわりめまではどうにか食いついた。エンジンを全力にして、なおもまわりつづけた。私はもう夢中だった。
すると、黒岩機が旋回しながら急に機首を下げた。私もすかさずつっこんだ。すると、今度は黒岩機が急に機首を持ち上げて斜め宙返りをはじめた。一瞬おくれて私もこれにならった。ここでは私が少しくいこんだと思った。距離50mで、私は機首をあげていった。そこまではよかった。ちょうど黒岩機が宙返りの頂点に達するまえ、機首をたてながら急に翼を左へ大きく傾けたように見えた。それは変な操作であった。
私は、何がなんだかわからないようになったが、おなじような操作でついて行こうとした。すると、どうしたというのか、一瞬、黒岩機が見えなくなった。私は前のめりになったような気がした。頂点をすぎると、機首が下がって降下をはじめる。加速のつくのを待って、ふたたび操縦桿を引っぱって斜め宙返りをしようとしたが、黒岩機が急に見えなくなった。まさかあそこで墜落したのではあるまいが…。一瞬、私はそんなことを考えながら、宙返りの途中から横の運動にうつし、つづいて水平飛行に移った。そしてあたりを上下左右と見まわしたが黒岩機は見えない。<中略> 黒岩機はいつどうして操縦して回り込んだかのか、私の直後30mの位置にぴったりとくいついているのである。
[ 坂井さんは着陸後、黒岩一空曹にこの格闘戦の謎を質問しますが、黒岩空曹は『どこでどうする、ということはなかなか教えることができん。盗むんだよ。』とかわされます。]
30分ほど休憩して、こんどは望月空曹長に格闘戦をならった。結果は、もちろん私の完敗であったが、こんどは上昇垂直旋回中に、いつのまにか、ずるずると真うしろにつかれてしまった。私は必死になって操縦桿を引きつづけたが、望月空曹長の旋回半径は、私よりずっと小さかった。
「大空に生きんとして」のなかの一節 P126〜
[1938年4月頃、大村航空隊 使用機種 九五艦戦又は九○艦戦]
その後、私は大村航空隊で、格闘戦では、とうじ日本海軍一といわれた半田亘理一空曹に空戦を教わったが、この人の技は、今まで経験したことのない術であった。宙返りに近い縦の運動の格闘をやっているうちに、いつのまにか私のが機がひょろひょろと前にはみ出してしまうのである。なんかいやっても同じ結果である。
「この技はな、左ひねりこみといってな、宙返りの頂点あたりをたくみに利用して、相手の内側、内側と入るように舵をつかうのだよ。つまり相手の旋回半径より小さくまわるようにするんだ」
もちろん、りくつはそのとおりである。格闘戦では一旋回に要する時間ではなくて、いかに旋回の半径を小さくするかということが問題である。
<中略>[このあと飛行機の失速についての記述が3ページにわたって続きます]
こうして、格闘戦をおぼえてから二年もたつと、カンのいい者は自分の飛行機の動きを、だいたいつかんでくる。三年めにはいると、大半の者が腕に自信をもつようになり、十年選手のベテランたちも、そう簡単には勝てなくなってくるものだ。
私もまたその例外ではなく、三年たって飛行機の動きがようやくわかってきたように思えた。
そして、格闘戦において、どうして相手の内側をまわるようにするか、ということを真剣に考えた。そして戦闘機はスタントにおいて、失速速力の少しまえで、最大限に舵を使えば、最小半径で旋回できる箇所があることを発見した。<中略> さらにその舵のきかせどころをどこへもっていくか、これは大切なポイントだと考えた。
<中略>[背面時、宙返りの頂点でパイロットの勘がいかに狂うかというはなし]
自分がもしも敵機につかれた場合、どこで相手を振りはなし、そして逆に食いこむか、それには、だれもがカンを狂わす背面近くでやることだ。<中略>
そして、相手を左斜め宙返りに引きこんで、これから背面に入るというところで、操縦桿を左にたおして引きつけながら、背面左バンクにあわせて踏みこんだ左足を瞬間、逆に右足にほんの少し踏みかえることによって、飛行機は螺旋状に右に急速に向きをかえ、相手より小まわりすることを発見した。<中略> 黒岩機や半田機の魔術も、おそらくこの技にちかいものであったことはまちがいはない。
[この節引用終わり]
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