|
以前「左捻り込みの謎を追う」と題して研究サイトと作っていたのですが(恥ずかしながら現在は閉鎖)そのとき、いろいろと書き溜めていた原稿をアップしてみます。やや断定的口調で、おかしいところもあるかもしれず、ご批判もあろうと思いますが、ご意見などいただければうれしいです。
坂井さんのいう「左捻り込み」は次のように説明されています。
すなわち、
「こちらと同じ機種、同じコンディション、同じ初期速度の相手が後方から追尾してくる態勢から、3旋転から4旋転のうちには、確実に挽回して相手を追尾する態勢にもっていく」
というものです。
ぼくは、これを可能にするためには、意図的に相手をオーバーシュートさせる戦術が必要となると考えます。この戦術こそが、左捻り込みの本質であり、換言すれば、左捻り込みは「相手のオーバーシュートを狙った逆転技」であると言えます。
相手をオーバーシュートさせる戦術とは、後方からこちらを捉えようと追尾してくる相手を、やり過ごして先に行かせておき、逆に追尾に入るというものです。
このトリッキーな戦術に対し、いわば正攻法といえるものがあります。相手より旋回率で勝る旋回を1方向に続けて、同位から徐々に食い込んでゆき、最終的に相手を照準に捉えるというものです。ただし、後方からこちらを捉えようと追尾してくる相手を、3〜4旋回する間に、逆に追尾する態勢にもっていくには、相手より1旋回近く余計に旋回しなければなりません。つまり、相手が全力で3旋回する間に、こちらは4旋回近い旋回をする必要があります。こちらが零戦で相手がB17なら話は別ですが、相手も同じ機種で、エンジンパワーほか初期速度や重量について同じ条件であるとすると、このような旋回は、航空力学的には明らかに不可能と考えられます。いかにプロペラのジャイロモーメントやPファクターといわれる力を使っても、そのような力はほんの微々たる物であって、とても1旋回近い旋回を可能にするようなものではありません。
以上の話は、AHをはじめとするコンバットフライトシムで格闘戦を経験したことのある方なら、自明のことと思います。
ただ、加藤寛一郎さんの「飛行の話」「零戦の秘術」では、この点が明快にされることはなく、同位から3旋回で後方に占位する「正攻法」のイラストが挿入されているなど、左捻り込みが正攻法であると読者を誤解させる内容となっています。
加藤さんは、航空力学の専門家ですから、正攻法によっては坂井さんの話が不可能であることを十分わかっていると思いますが・・・
|
|